【ATL―成人T細胞白血病―制圧へ】支援へ まず知ろう ATLシンポ「知ってください! HTLV1のこと」
九州・沖縄で約50万人が感染していると推定され、血液のがん・成人T細胞白血病(ATL)やHAM(ハム)と呼ばれる神経疾患を引き起こすウイルスHTLV1について、患者や感染者への支援を考えるシンポジウム「知ってください! HTLV1のこと」が5日、福岡市・天神のエルガーラホールで開かれた。妊婦健診時のウイルス抗体検査や、情報の周知徹底、相談窓口設置など国による総合対策を目指し、2005年に発足したNPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」(鹿児島市)が主催。HAM患者でもある同会の菅付加代子代表理事をはじめ医師、弁護士、記者など8人が意見を交わし、300人が耳を傾けた。
●司会
▼山本 慎一さん(やまもと・しんいち)KTS鹿児島テレビのアナウンス部長。自らも感染者。
●パネリスト
▼菅付 加代子さん(すがつき・かよこ)日本からHTLVウイルスをなくす会代表理事。HAMを発症。
▼古賀 克重さん(こが・かつしげ)弁護士。薬害肝炎九州弁護団事務局長。HTLV1の患者も支援。
▼林 昇甫さん(はやし・しょうほ)昨年12月に肝がんの臨床医から厚生労働省へ。同省がん医療専門官。
▼高橋 咲子さん(たかはし・さきこ)毎日新聞社東京本社学芸部記者。HTLV1の取材に取り組む。
▼満田 祥子さん(みつだ・しょうこ)福岡大学人文学部2年生。B型肝炎訴訟の支援活動に携わる。
▼坂本 信博(さかもと・のぶひろ)本紙報道センター記者。ATL問題取材班の一員。
●放置への憤り感じ活動・菅付さん 妊婦検査の格差に疑問・満田さん
菅付さん HAMを発症して20年。車いすで生活している。寝たきりになって亡くなっていく仲間を見てきた。同じウイルスから起きるATLも過酷な病気で、知り合った人たちをたくさん失った。「どうして国は放っておくんだろう」と憤りを感じ、活動をしている。
古賀さん 菅付さんとの出会いは「HTLV1の対策に国の責任はないのだろうか」とメールをいただいたことだった。確かに行政のいろんな問題がからんでいる。
林さん 「国の責任」という言葉に心が痛い。2009年度に始まった「HTLV1感染総合対策に関する有識者会議」で菅付さんと知り合い、なんとか思いに応えることができないだろうかと考えてきた。今日は針のむしろに座ることを覚悟してあえて来た。
坂本 ATLを知ったのは10年ほど前。長崎県の離島に特有の白血病と聞き、取材をしようとしたが、行政の職員から「地域差別につながる恐れがあるので記事にしないで」と言われた。
今回あらためて取材をし、1990年度に当時の厚生省の研究班が「感染者は自然と減るので全国一律の対策は不要」と提言し、国も九州・沖縄の風土病と判断して対策を自治体に任せたことや、この20年間に2万人がATLで亡くなったこと、感染者が全国に拡散していることを知り、キャンペーン報道を始めた。
高橋さん 鹿児島支局に勤務していた2003年、地元紙が菅付さんがHAM患者の会を立ち上げると報じた。デスクに「君が大変な問題だと思えば記事にせよ」と背中を押されてから、取材に取り組んでいる。
山本さん 1988年に妻が最初の娘を身ごもったとき、HTLV1に感染していることが分かり、私自身も3年前に感染が分かった。長年取材に取り組んでいるが、なかなか知られていない。
満田さん 疑問が二つある。なぜ九州に感染者が多いのか。九州の「風土病」とまで言われるのに、なぜ妊婦抗体検査が必ずされていないのか。西日本新聞の記事には、福岡県の検査実施率は80・9%で、全国38位とあった。
山野さん 韓国や中国には感染者がすごく少ないので、日本にいた縄文人に多かったのだろうと考えられている。また主に母乳で母から子へ感染するため、偏在を生んだ。
坂本 満田さんが紹介してくれたのは、厚生労働省の特別研究班が昨年、全国の産科診療施設にHTLV1の抗体検査を行っているか尋ねた数字。回答率が4割のため、実施率が100%でもすべての施設で検査をしているとは言えない。
山野さん 検査費の公費負担があるのは、九州では長崎、鹿児島、宮崎、大分の4県。医療機関が検査をしているといっても、有料だったらしない妊婦もいる。
山本さん 感染しているかどうか、あえて調べさせる必要はないという意見がある。
菅付さん 厚生労働省にも「ほかのウイルスより発症率が低い。治療法もなく、告知してもデメリットのほうが大きい」と言われた。そもそも厚労省にはHTLV1、HAM、ATLについて一本化した窓口はない。
山野さん HTLV1関連疾患の研究費は、同じウイルス感染症であるエイズ(後天性免疫不全症候群)やC型肝炎と比べると少ない。ぜひ増やしてもらいたい。
林さん 私は厚労省のがん対策室におり、血液のがんであるATLの研究について紹介する。本年度は、骨髄移植が受けられる年齢を広げるために、体への負担が少ない「ミニ移植」の臨床試験を全国に広げ、臍帯血(さいたいけつ)からの移植も研究を始める。
●感染者の精神ケア重要・高橋さん 国には結果責任がある・古賀さん
坂本 福岡県の古賀市は6月から、母子健康手帳を交付する際に、HTLV1やATLのことを知らせる手作りのチラシを渡し始めた。かかった費用はほぼゼロ。検査費の公費負担も大切だが、小さな工夫でできることがある。
会場から(東京都北区の宮島修議員) 古賀市ではチラシを配るまで1カ月かかったそうだが、私の区では1年かかった。職員や区長がATLのことをまるで知らなかったためだ。
母子手帳と一緒に配られている冊子には「子どもは母乳で育てましょう」と7カ所も書かれている。母乳を与えられない人がいる説明はない。このチラシ一枚で救われるお母さんたちがいる。
山本さん 妻は3カ月だけ授乳して、娘2人を育てた。母乳をどうするかという苦しみは大きい。
会場から(江田康幸衆院議員) 母子感染を防ぐための検査の費用負担、感染が分かった人の支援、発症予防や治療法の研究推進と、総合的な対策が重要だ。
坂本 私たちが全国の感染者にアンケートをしたら、妊婦健診で感染を知った人の71%が「告知後の心のケアが不十分」と答えた。検査をするだけでなく、医療者がきちんと説明できるよう研修する必要がある。
高橋さん 産科婦人科学会が、全国一律で妊婦健診で抗体検査をするよう診療指針の改定を進めているが、それだけでは足りない。感染が分かった妊婦に過大な不安を与えないよう、精神面のサポート体制が重要だ。
満田さん B型肝炎の患者が「身近な人には心配させたくない」「他人の偏見が怖い」という理由で結局、誰にも相談できないとおっしゃっていた。でも話すことで救われることもある。このウイルスをまず私たちが知ることが、支援の第一歩と思う。
古賀さん 最後に法的な視点を二つ提供したい。HTLV1は80年に発見され、日本で献血された血液に検査が行われるようになったのは86年。輸血感染を起こしたと考えられるこの5年間は果たして良かったのか。また90年に国が対策をとれば、どれだけ被害を抑えられたか。国が放置した結果責任はあるだろう。訴訟をせずとも、国は動く必要がある。
× ×
■基調講演要旨
●検査や治療に総合対策を
▼聖マリアンナ医科大難病治療研究センター 山野嘉久准教授
HTLV1は、Human(ヒト) Tcell(T細胞) Leukemia(白血病) Virus(ウイルス) type1(1型)の頭文字を取った略称。文字通り、ヒトの白血球にあるT細胞が白血病を起こす。発見されたのは30年前だが、縄文時代から日本人には感染していた。現在は110万人以上、つまり100人に1人が感染している。だが自覚症状がないため、知られていない。
感染者の5%がATLという白血病を、0・3%が神経難病のHAMを発病する。ATLは数ある白血病のなかで最も死亡率が高く、日本では毎年千人が亡くなっている。HAMも足がまひしたり、尿が出なくなったり、寝たきりになる人もいる。両方とも残念ながら治療法は確立されていない。
なぜ感染するかというと、6割は母乳を介した母子感染。残りはほぼ性感染です。4カ月以上母乳を与えると約20%感染する。だが授乳を3カ月未満にしたり、粉ミルクにすれば感染率を約3%まで減らすことができる。
1990年度に全国の感染者数を調べた研究では「いずれ自然に減っていく。対策は感染者の多い地域のみ対応すればよいのではないか」とされ、対策は各都道府県に任され、実際に母子感染対策をしたのは長崎や鹿児島など一部にとどまった。結果、2008年の再調査で、対策をした九州では減ったが、大都市圏では増え(人の移動などで)全国に拡散していることが分かった。
全国での母子感染予防はもちろん、感染が分かった人が定期的にウイルス量検査を受けたり、発病を防いだり、発病した患者がきちんと治療を受けられるよう、四つの点で総合的な対策が重要だ。全国で150―200万人の感染者がいるとされるC型肝炎と比べても、4点とも非常に遅れている。
=2010/06/12付 西日本新聞朝刊=
◆ATL問題に関する質問や意見をお寄せください。住所、氏名、連絡先を明記の上、あて先は〒810-8721(住所不要)、西日本新聞報道センター「ATL問題」取材班。
ファクス=092(711)6246
メール=syakai@nishinippon.co.jp
◆ATL患者や家族からの相談は
NPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」=http://www.minc.ne.jp/~nakusukai/index.html
NPO法人はむるの会=http://htlv1toukyou.kuronowish.com/
◆ATLのことを詳しく知りたい時は
JSPFAD(HTLV1感染者疫学共同研究班)=http://www.htlv1.org/
2010年06月15日 コメント&トラックバック(0) | トラックバックURL |
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